尿路とは腎臓で作られた尿が流れる通り道のことで、上方から腎盂、尿管、膀胱があります。腎盂、尿管、膀胱、尿道の粘膜は移行上皮といわれる細胞からなり、腎盂から発症した腫瘍は腎盂腫瘍、尿管の場合は尿管腫瘍、膀胱の場合は膀胱腫瘍といわれます。いずれの腫瘍も移行上皮細胞から発生することが多く、90%以上が移行上皮癌といわれる腫瘍です。他には腺癌、扁平上皮癌などがあります。部位、治療内容から大きく腎盂・尿管腫瘍と膀胱腫瘍に分類できます。
腎盂尿管腫瘍の発生頻度は低く、同じ尿路上皮から発生する膀胱癌と比べてその頻度は1/7ほどといわれています。腎盂・尿管にできる腫瘍のほとんどは悪性腫瘍で、良性腫瘍は比較的まれです。
(病因)尿中の化学物質、喫煙、癌遺伝子などが関係しているといわれています。
(症状)肉眼的血尿で見つかることが最も多く、80%以上の症例に血尿を認めます。また腫瘍や血塊による尿路閉塞にともなう疼痛が起こることもあります。
(診断)①検尿を行い尿潜血の有無を調べます。②尿中に腫瘍細胞の有無を尿細胞診で調べます。③超音波検査にて腫瘍、水腎症の有無を確認します。④膀胱鏡を行い膀胱内の腫瘍の有無、尿管口からの腫瘍の突出、出血の有無を確認します。⑤造影CT、MRI、逆行性腎盂造影などレントゲン検査をおこない画像的検査を行います。
(治療)転移の無い場合は腎・尿管・尿管口周囲の膀胱壁を一塊として摘出する腎尿管全摘膀胱部分切除術が標準治療となります。転移を認める場合は、放射線治療、抗がん剤治療(MVAC療法、GC療法、etc.)などを症例に応じて施行します。
(予後)筋層まで達していない表在癌では予後良好で5年生存率は80%を超えます。しかし筋層、それ以上に浸潤している場合は予後不良で5年生存率は30%前後となり、転移のある症例ではさらに予後は不良となります。
(治療後)定期的なレントゲン検査をおこない転移再発の有無を調べます。また膀胱癌が続発することもあるため定期的な膀胱鏡検査が必要です。
膀胱癌は50歳代以降に発生頻度が高く、男性は女性より3~4倍の頻度で発生します。この疾患は表在癌と浸潤癌に大別され、臨床経過、治療内容に大きな違いがあります。
(病因)喫煙、慢性尿路感染症や一部の化学薬品(化学染料etc.)などが従来から関係を指摘されています。とくに喫煙者は非喫煙者の2~10倍の相対危険度があり、膀胱癌の30~40%は喫煙が原因と考えられています。
(症状)検診での尿潜血陽性や、超音波検査で膀胱内に腫瘍を指摘されることがあります。無症候性肉眼的血尿や膀胱刺激症状で見つかることがほとんどです。
(診断)①検尿を行い尿潜血の有無を調べます。②尿中に腫瘍細胞の有無を尿細胞診で調べます。③超音波検査にて腫瘍、水腎症の有無を確認します。④膀胱鏡を行い膀胱内の腫瘍の有無、性状を確認します。⑤造影CT、MRIなど画像的検査を行います。
(治療)表在癌に対する標準的治療は経尿道的に内視鏡を挿入し、腫瘍を電気メスにて切除する経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)です。また肉眼的には確認できない腫瘍もあるため、膀胱粘膜を複数個所採取し組織検査を施行します。経尿道的手術にて完全切除が可能なのは粘膜下までの腫瘍であり、筋層に達する浸潤癌では本治療法では不十分です。この場合膀胱すべてを摘出する根治的膀胱全摘術や、選択的な抗癌剤動脈注入と放射線治療の併用療法を行います。膀胱を摘出した場合、腸管を用いた代用膀胱作成か尿路変更術が必要となります。
転移を有する場合や再発が予想される場合は全身癌化学療法を行います。効果的な制吐剤や副作用の少ない抗がん剤の出現で以前より楽に全身癌化学療法(MVAC療法、GC療法、etc.)が行えるようになりました。膀胱内の再発予防や治療目的で、膀胱内に抗がん剤やBCGを注入することもあります。
(治療後)定期的なレントゲン検査、尿検査をおこない転移再発の有無を調べます。また膀胱癌は表在癌であっても膀胱内再発をおこしやすい腫瘍です。このため定期的な膀胱鏡検査が必要です。